2005年11月23日。『KUES 9th LIVE~It's KUES time!~』開場直前。会場となった共北26にはKUESの誇る47名のアーティストが集まっていた。
初めてのLIVEを迎える人。中心学年として走り回った人。これがKUESでの最後のLIVEとなる人。
それぞれが大きな想いを抱えながらその時を待っていた。その中で僕はこのサークルに入ってからの半年間を思い出していた。
僕とKUESとの出会いは高校2年の時。京大のNF(11月祭)で観た5th LIVEに心打たれ、エレクトーン経験があったこともあって記憶に残っていた。その時は自分がそのサークルに入るとは思いもしなかったが。
大学生になり入部するとすぐにNFに向かって動きだした。
まず決まった曲は「月光花」。
Janne Da Arcの大ヒットナンバーでアニメ「ブラックジャック」のオープニングテーマにもなった曲だ。
J-POPが好きな僕としてはこの曲はとても楽しみにしていた。 次に東京スカパラダイスオーケストラのシングル曲「世界地図」。ブラスサウンドの心地よいノリのいい曲だ。
1回生男4人で組もうと決めたあと、その中の一人が持参したMDを聞いて全員が気に入り、即決したのだった。
そして「名探偵コナン メイン・テーマ」。映画のオープニングなどでよく耳にする有名曲である。
1回生の女の子2人に声をかけてもらって結成されたグループで演奏することになった。
練習に最も早く入ったのは「月光花」だった。
初めのうちは途中で演奏が止まったりと若干不安に思うところはあったが、次第に曲が形成され始めるとどんどん完成度が上がっていった。比較的簡単なパートを担当したため練習中も周りの音がよく聞こえ、普段聴く立場の曲を自分達で演奏していることに少なからず感動を覚えたものだった。続いて他の2曲も練習に入り、何度もアンサンブルを重ねていった。
「世界地図」はノリの大切な曲であるため、演奏だけでなく全身での表現が求められ、練習中から必死にテンションを上げようとしていた。そうしているうちに曲に気持ちが乗るようになり、自然と体が動くようになっていき、演奏を楽しめるようになった。またこの曲には常に同じリズムをきざみ続ける過酷なパートがあり(幸いにも僕の担当ではなかったのだが)、練習の度にねっしーの苦しみを労わっていた。
「名探偵コナン」のメンバーは練習熱心で、初めて合わせた時から個々人はきっちりと弾けていた。なので後は全体のバランスと3人の息を合わせることに気をつけていたのだが、1回生だけということもあり、自分達だけではどうしてよいか分からなくなる時も先輩に意見をもらったりして、徐々に曲にまとまりが出るようになっていった。
秋になりライブが近づくと練習の数も増え、完成へ向けペースを上げていった。
「世界地図」のメンバーの体の動きは良くなり、当初は懸念されていたワラのオルガンソロもしっかり弾けるようになった。
「名探偵コナン」の3人のチームワークも成長し、コントの内容も決まって本番への準備が順調に進んでいた。
しかし、「月光花」は直前になって問題が生じていた。この曲はフェードアウト(徐々に音を小さくしていくこと)して終わるのだが、「アンサンブルでフェードアウトは難しい」ということで終わり方を新たに考える、と決めていた。だが、一向に決まる気配もなく気づけばもう11月。焦って考えようとするもなかなかいい案が出ず、急きょてつぼんさんにエンディングを作ってもらったのだった。突然のお願いだったにも関わらず手際よくさっと作り上げてしまうてつぼんさんのすごさに感服しつつも、本番まで残り2週間。やばい。
曲の話からは外れるが、KUESではLIVEをするにあたって曲を演奏する以外に各自に割り当てられる重要な役割がある。
係と呼ばれるその仕事はLIVEの宣伝をしたり会場の装飾をしたり、プログラムを作ったりと様々に分けられる。
9th LIVEで僕は看板係を担当した。文字通り看板を作る係だ。
吉田食堂の前を通った方にはお目にかかったかもしれない大看板、LIVE会場となった共北26のある建物の入り口付近に設置した小看板や吊り看板を制作した。
美術が大の苦手だった僕としては不安でいっぱいだったのだが、実際の作業ではとても楽しく、何より完成した時の喜びは文字には表せないようなものであった。KUESの大看板は吉田食堂前に設置されることが多いので、ご覧になった方は一生懸命制作する若人の姿に思いをはせてみてほしい。
そしてやって来た本番の日。
今回はNF初日にライブを行うため、リハーサルは当日の午前に行われた。
最後の音合わせ、会場の装飾、皆あわただしく動く。さすがにライブ直前、気合の入り様がひしひしと伝わってくる。
僕も3曲のリハを済ませ、若干の緊張感と共にその時を待っていた。・・・・。そして開場5分前。
ライブメンバーで円陣を組み、心を1つにする。会長の声に皆が答える。自然と気分が高揚していった。
ライブが、演奏が…楽しみだ。
1日目の最初の演奏曲は「名探偵コナン」だった。
いきなりコントありの曲。大きな声を出すように、と先輩方に言われるもやはり心配だった。
いよいよ出陣。僕の9th LIVEの始まりだ。意気込んで教室に入るとそこには人、人、人。
全員が僕達に注目していた。だめだ。声が出ない。絞り出そうとしても出てこない(後でこの場面を撮影したビデオを見たが、やはり声が消えていた)。完全に萎縮してしまった。それでもあっという間にコントは終わり演奏へ。
強烈な緊張が持続したままエレクトーンの椅子に座った僕は自分を見失いかけていた。
そんな時、ふと顔を上げると見慣れた2人がそこにいた。これまで練習で何度も音を合わせてきた仲間。
その心強い存在のおかげで僕は落ち着きを取り戻すことが出来た。
演奏が始まっても、もう今まで感じていた緊張が襲ってくることはなかった。
むしろ、3人で作り上げるものを披露できている事がこの上なく気持ちよかった。
今から思うと短いこの曲の中で精神状態が二転三転していたわけだが、何より気持ちよく演奏できたことは大きな手応えとなった。仲間がいるから、大丈夫。そんな自信を得たのだった。 次に演奏した曲は「月光花」。
この曲は1日目はコントをしないことになっていたので、衣装に着替えて演奏した。といってもこの 衣装がなかなかに異質で、ブラックジャックになるために黒コート、チョッキ、ズボン等々揃えたのだった。
演奏だけでなく見せる面でのKUESのこだわり様を思い知った瞬間だった。演奏は「名探偵コナン」で得た自信のおかげで緊張することなく楽しむことが出来た。心配していたエンディングもきれいに決まり、一安心。
1日目最後は「世界地図」。いかに楽しさ、ノリのよさを表現するかが勝負なので演奏前から4人でテンションを上げていった。
そして演奏開始。みんな体も動いている。よし。やはりノリのいい曲を弾いていると気持ちが高ぶってくる。オルガンソロもちゃんと決まっている。
よしよし。一気にラストへ。そして終了。本当に楽しめた。曲に乗ることを意識したあまりミスタッチが何度も出たが、ノリ重視だから仕方がないだろう、と話すメンバーは笑顔だった。 あとはKUESメンバー全員参加のメドレーだ。
メドレーでは自分の演奏する部分よりも演奏していない部分の方が多く、その間は手拍子や振り付けをする。
僕の担当したパートはメドレーの中の1曲目であったので、最初に演奏し、その後は一生懸命手拍子をして(ビデオを見る限り、まだまだ努力が足りなかったようだが)メドレーは、そして9th LIVE初日は終わった。
1日目と2日目の間には2日あり、リハーサルやデモ演奏(KUESメンバーがソロで屋外で演奏をした)が行われた。
そしてやって来た2日目。2日のインターバルの間に出てきた反省点を踏まえてのステージだ。
2日目の最初の出番は「月光花」だった。
2日目はコントを行うことにしていたので、教室に入る前に流れを確認し、各自が配置についた。
前の曲「In The Mood」が終わり、のぶとさんが突入。
スムーズにコントが進んでいく。僕に用意された台詞は1つ。1日目と同じ衣装に身を包み、声を張り上げた。
「それではこれからオペを開始する。」まずまず声は出せたようだ。その後の演奏も1日目同様きっちり決まった。
次に来る曲は「世界地図」。そして3曲目は「名探偵コナン」。
この2曲共に1日目以上に楽しんで弾くことができた。世界地図のノリ、コナンのコント、どちらも成功と言えるものだったと思う。
いよいよ最後のメドレーへ。「最後が近づくにつれ寂しさがこみあげてきた」と言う人もいるが、この時の僕は寂しさを感じる隙間もない程精一杯楽しんでいた。そしてメドレーも終わり、『KUES 9th LIVE~It's KUES time!~』は終幕した。
LIVEを終えた僕は言い知れぬ達成感に包まれていた。
高校までは見る立場だった自分がKUESのメンバーとして作り上げた初めてのLIVE。その余韻に浸りながら僕は率直に「KUESに入れてよかった…」と思った。そして今。このレポートを書きながら考える事。
それは、この先自分が参加するであろうLIVEの事。数限りあるLIVE。
その1つ1つを大事にして、9thで得たもの、いやそれ以上の楽しさ、達成感を得たいと思う。
そこにはきっと、KUESでしか得られないものがあるはずだから。